「ドリルを売るには穴を売れ」を読みました。
この本はマーケティングに関して初めて学ぶひとに向けて書かれた本です。
私はマーケティングという言葉は知ってはいたものの、医療職ということもあり実際に仕事に活用することはありません。
ただ、hitodeblogさんでブログ運営におススメの本として紹介されており、ブログを運営するうえで参考になるかなと手に取りました。
読んでみたところ、有益な学びがありました。
マーケティングの神髄は、「顧客にとっての価値」を売ることにあります。
その点において、医療者も「患者さんにとっての価値」を意識することは重要であるという共通点がありました。
この本はマーケティングに関して初心者はもちろんですが、全く関係ない仕事に就いている方にとっても、参考になる内容でした。
「ドリルを売るには穴を売れ」がおススメできる人
マーケティング初心者
当然ですが、「マーケティングって何?」という全くの初心者に優しい本となっています。
本の「おわりに」の部分に以下のように書かれていました。
本書は、マーケティングの基礎を分かりやすく、かつじっくりとお伝えすることを目的として書かれた。
そのために内容を絞りに絞って、マーケティングの本質をえぐり出すことをに最大の力を注いでいる。
このように、非常に基礎的な部分、本質の部分を描くことに拘って書かれており、マーケティングに関して全く知識がない状態の方が読んでも分かりやすい内容となっています。
ブロガー
そもそもこの本は、前述のようにhitodeblogさんが、ブログ運営におススメの本として紹介されていました。
たしかにブロガーやアフィリエイターにとって記事を書く一つの目的は、商品紹介して購入を促すといった点にあります。
例えばある商品を紹介するにしても、大切なのは商品スペックそのものよりも、その機能があることによって生活がどのように変化するかを表現することが必要です。
どのくらい豊かに過ごせるようになるのか、どのくらい潤った生活が送れるようになるのか。
乾燥機能付き洗濯機を例に出すと、洗濯から乾燥までノンストップで行ってくれる、といい点がスペック。
そのスペックによって干す手間が省かれ、自分の時間を持つことができ、他の何かに取り組むことができたり、ゆとりをもって過ごすことができる。
この様に生活自体がどのように変化するのか?まで思いを馳せ、表現できれることはブロガーにとっても必要な考え方となるでしょう。
ちなみにヒトデさんは、この本を参考にしてマーケティングに関する解説動画を4本も挙げています。
本と動画の両方見比べると、より理解が深まるのでおススメです。
医療従事者
この本は実に様々な方におススメできると思いますが、その中でも私は医療の仕事に就く方々におススメしたいなと思います。
私は理学療法士として働いており、患者さんに向き合うときにマーケティングにおけるベネフィットを考えるという点は、非常に参考になるなと感じました。
ベネフィットとは
本書におけるベネフィットは、「価値」とされています。
これは、マーケティングにおいて最も重要なキーワードといえるでしょう。
マーケティングとは、本質的には「顧客にとっての価値」を売り、その対価として、顧客からお金を頂くことだ。
本書でこの様に記載されているように、「顧客にとっての価値」であるベネフィットを考えることがマーケティングの肝です。
それは、本書の題名「ドリルを売るには穴を売れ」からも読み取れます。
つまり、ドリルを購入する人がいたとして、その人が本当に欲しいものは何か?を考え、提供することが大切なのです。
多くのドリル購入者は、ドリルそのものが欲しいのではなく、ドリルを使って開ける「穴」が欲しい。
「穴」をあけたいからドリルを購入しようとしている、という前提があります。
この前提を理解することにより、では「どのくらいの大きさか」「どのくらいの深さか」「幾つくらい穴をあけるのか」という、お客がどの様な「穴」を求めているかがわかるようになります。
この詳細な点がわかれば、数あるドリルから何がおススメできるか、はたまたキリをおススメした方が良いかなど、お客の心から求めているモノを提供することができるのです。
この様な過程を経るためには、「本質的な価値」であるベネフィットを理解する必要があります。
患者さんのベネフィットを考える
リハビリテーション職種として働いていて、よく言われるのは、患者さんの機能だけを見るなといったことです。
これは例えば歩くのが何かの理由で難しくなってしまった患者さんに対して、歩けるようになることばかり考えるのがリハビリテーションではないということを表しています。
つまり「ただ歩けるようになる、自力で移動できるようになる」といったことができれば良い訳ではありません。
「どこかへ行きたい」「どこかへ行って何かをしたい」という欲求を満たす手段の一つが歩くことであるに過ぎません。
「その患者さんは歩けるようになって、何がしたいのか?」の方が本質的に大切であるという訳です。
つまり前述の例でいうならば、以下のようになります。
- 「ドリル = 歩くこと」
- 「穴 = どこかへ行って、何かをすること」
本書ではその他にも、ベネフィットは人によって異なるため対象を分類して考えなければいけないといったことが述べられています。(セグメンテーション)
これもリハビリテーションの場面では、若年者と高齢者で対応や考え方が異なるという点で参考になりました。
またベネフィットを最大化するために「差別化」が必要であるといった考え方は、理学療法士として個別性を備えるにはどの様にしたら良いか、といったことを考えるうえでも参考になる本でした。
なぜ「ドリルを売るには穴を売れ」は分かりやすいのか
理論編とストーリー編
本書は、マーケティングとは何か?といった理論編と、その理論をどの様に使うのかを補完するように、物語として説明したストーリー編の2つの構成て表現されています。
理論編では、マーケティングに関する言葉とその意味が説明されています。
もちろん、その説明自体も平易で分かりやすいのですが、ストーリー編で具体的な事象として補足されるので、理論を利用する場面も思い描くことができ分かりやすかったです。
ストーリー編は、売上の少ないイタリア料理店にどうしたらお客さんに来てもらえるかを、主人公がマーケティングを学びながら試行錯誤しつつ活躍するお話です。
以下はその一部で、端的にマーケティングについて表していると思います。
「誰が、どうして「あの店にしよう」って言いだして、誰が決めるか、っていうのがポイントなんですね。」
(中略)
「マーケティングってそんなに複雑な理論じゃなくて、お客様が『どの店に行くか』を決めるプロセスを考えることだよ。
それがお客様のココロの中で起きていることだからね」(p.127)
理論編では、ベネフィット、セグメンテーション、などなど、少し専門用語も出てくるのですが、ストーリー編では上記のような情緒的な部分からも説明が加わっていました。
こうした話の構成により頭で理解するだけでなく、心にも沁みる内容となっていると感じます。
マーケティングは抽象化すること
『誰が、どうして「あの店にしよう」って言いだして、誰が決めるか』
この一文がマーケティングを表しているとしたら、マーケティングとは抽象化することに通じるのではないかと考えます。
抽象化することの大切さは、先日読んだ「メモの魔力」にもありました。
上記の「どうして」の部分は、WHYとも読み解けますし、HOWと読み解けなくもありません。
誰が決めるかは、どの様に決めるかと言い換えることも可能でしょう。
いずれにせよマーケティングとは、誰が(WHO)、なぜ(WHY)、どの様に(HOW)の部分を考えることが必要であり、この抽象的な部分を具体化させていく過程であるのだと思います。
このように考えたとき、前述のように理論編とストーリー編は、「抽象と具体」で構成されています。
そして更に、ストーリー編の主人公が、マーケティング初心者である読者そのものとして明確にイメージされているからこそ、おもしろく読めたのでしょう。
つまり、この本自体がマーケティングの考え方をもとに作られているからこそ、理解しやすく、受け入れやすかったのだと思います。
「ドリルを売るには穴を売れ」感想まとめ
繰り返しになりますが、本書は、マーケティング初心者にとって非常に理解しやすい内容となっています。
しかしながら、マーケティングとは縁のない、仕事に関係ないと思われる、医療従事者である私にとっても学びの多い本でした。
自分の仕事が提供している「本質的な価値」とは何なのか?
それを考えるだけでも、仕事に対する姿勢、考え方が少し変わるのではないでしょうか?
誰が(WHO)、なぜ(WHY)、どの様に(HOW)私の仕事の価値を求めているのか。
こうしたことを考えながら、臨床に向かうことができたらと思います。
もちろん医療従事者でなくても、何かを他者へ提供している仕事であればマーケティングの考え方は非常に参考になると思うので、ぜひおススメしたい一冊です。